〜ある軍医の記録〜

架空戦記風。


20XX年。突如勃発した第二次湾岸戦争
ミラマー海軍基地でのんびりと診療の日々を送っていた私にも上からのお声が
かかり、11月1日をもって米海兵隊第二遠征団(2MEF)付軍医として、大尉
待遇で出撃することとなった。


*11月4日

午後2時、イラク駐留米軍基地にヘリで降り立った。
即刻、基地司令官に着任の挨拶をすませた。そのとき一人の若い衛生兵が
私につくことになった。
「私はセバスチャンともうします!よろしく御願いします、大尉!」
彼は少し緊張した面もちで敬礼した。
聞くと階級は伍長だそうで、大尉待遇の私は雲の上の存在だそうだ。
「大尉は普段は武器をお持ちじゃないんですね」
「ん?いや私は軍医だから。」
「そうですか。」
言われてよく注意して見るとこいつ、ジュネーブ条約で衛生兵には
禁止されたはずの武器を携帯している。
M16のようだ。拳銃も持っている。うお?!手榴弾まで!
「え?いや、みんな持ってますよ?だって戦場に行くんですから」
ジュネーブ条約も実際の戦争では有名無実といったところか。


*11月6日

着任して間もない私だが、司令官閣下から近日、大規模な作戦が行われると
聞いた。私には、第2海兵隊師団第4海兵連隊についてもらいたいとのことだ。
セバスチャンはそれを聞いても余り動じた様子はない。
若いのに戦場になれているのだろうか?


*11月9日

作戦内容が発表された。
カルカンド市に対して3個師団が正面から攻勢をかけるらしい。
私は興奮し、横にいたセバスチャンに小声で尋ねてみた。
「怖くないか?」
「大丈夫ですよ大尉。2人衛生兵がいる隊は強いと聞いてますから」
・・・そうなんだろうか。


*11月15日

いよいよその日がやってきた。
折悪く砂嵐によって視界が遮られ、攻撃ヘリは使えないとのことで、
最初から戦闘車両と歩兵による攻勢をかけるらしい。
午後12:15、戦いが始まった。
味方の砲撃で敵兵が宙に舞っている。
こんなに後方にいるのに空高く舞う敵兵が見えるのだ。
そうか、ここは戦場なのだな、と再度気持ちを引き締め、私の所属する
分隊が前進を始めた。


市内の至る所で乾いた銃声が聞こえる。
時折、手榴弾が炸裂する音と、敵兵の叫び声も聞こえてくる。
午後12:30、第四連隊は市街の一番外の壁に張り付き、突入の機会を
うかがっていた。
そのとき、壁のはるかむこうで声が聞こえた。
「コンボラ!」
なんだろう?そう思った直後、至近で凄まじい爆裂音がした。
耳が痛い。かろうじて開けた目には、分隊長以下、5名の隊員が血に染まって
倒れている姿が映った。


「いかん!セバスチャン!トリアージタグを持ってこい!応急セットもだ!」
トリアージタグとは有事の際に用いる、黒、赤、黄、緑などに分類されたタグ
を患者につけ、その重傷度が一目でわかるようにするものだ。
モートン軍曹は・・脳がはみ出ている・・残念だが救命は不可能だ。」
私は黒のタグを彼につけた。
ウェーバー一等兵は・・右下腹部からの出血か。過呼吸で頻脈になって
いる・・。出血性ショックか!くそっ!セバスチャン!出血動脈をクリップ
しろ!ライン確保して輸液を開始!患者はすぐ後送の必要がある!」
私は赤のタグを彼につけた。
「サムウェル兵長は・・・左大腿部に破片を食らっているが、周囲に熱傷も
ないし、意識もはっきりしている。今のところは大丈夫だろう、
セバスチャン!モルフィンで鎮静し、生食で創口を洗浄しておけ!」
私は緑のタグを彼につけた。


周囲で「メディーッック!!」の叫びが頻繁にあがるようになった。
私は他の分隊の負傷者も見に行き、その場でタグと適切な指示を衛生兵に
与え、再び自分の分隊へ戻ってきた。


するとなんということだ!セバスチャンが除細動機をウェーバー一等兵に当て
ようとしている。
いかん!この阿呆め、医学の初歩も知らんのか!
除細動機はその名前の通り、心房細動や心室頻拍など、心臓のおかしい動きを
止めるために電気ショックを与えるものだ。ショックによって心臓に伝わる
生体の電気信号が、乱れた状態から正常な状態へ戻る。
もし心停止している患者や出血している患者にそれを使えば、ただでさえ力を
使い果たしている心臓に新たな負荷をかけることとなる。それは患者の命を
絶つようなものである。
やはり新米の衛生兵などに任せるべきではなかった・・。
止めようと駆け寄る私の目の前で、セバスチャンは除細動機のスイッチを入れた。


「ババッ!」
「うぉぅっ!」
「オーケー、ユーグッドトゥゴー!(OK,you good to go!)」


うお!?!?なぜだ!?あれだけ出血し、意識も混濁していたウェーバー
元気に立ったではないか!
それだけではなく、銃を再び手にとり、戦場へと復帰していった。
呆然とする私の目の前でセバスチャンは今度はモートン軍曹にかけより、
除細動機を当てた。
無理だ。すでに瀕死のはずだ・・。


「ババッ!」
「おふぅっ!」
「オーライ!レッツゴー!(Alright!Lets go!!)」


も、モートン軍曹の頭が元に戻っている・・・・。
はみだした脳はどこへいったんだ・・。
あのおびただしい出血はどこへいったんだ・・・・。
私はおもわずモートン軍曹にかけよった。


「軍曹、意識が戻ってよかった。しかししばらく後方へ下がったほうがいい」
「大尉、何言ってるんだ?俺は今体力がマンタンになって凄くイイカンジ
だぜ?弾もまだあるしな。レスポーンする手間が省けたぜ」


モートン軍曹もまた戦場へと戻っていった。
目の前で起こる理解し難い情景に心を奪われていた私だったが、セバスチャン
のほうを見やってまた我が目を疑った。


セバスチャンはサムウェル兵長の大腿部の傷にメディパックをあてていた。
「キュゥ〜〜ッギュゥ〜〜〜ッ・・」
・・・一体何の音なんだ・・・。
しばらくするとサムウェル兵長は立ち上がり、元気に走っていった。
兵長の右の太股には、血痕すら残っていなかった。


「せ、セバスチャン・・これはいったい・・・」
「大尉、兵器と共に、医療機器も進歩します。今はこいつさえあれば大丈夫
なんですよ。それにスコアも+2ですしね」
彼はそういって除細動機を掲げ、にやりと微笑んだ。


その瞬間、右の建物から敵兵が乱射してきた。
私はとっさに伏せた。が、セバスチャンは間に合わなかったらしい。
「うぐっ!」
「セバスチャン!!」
いかん!セバスチャンが撃たれた!どうすればいい?バイタル確認してライン
確保か?いや、すぐに後送するべきか・・?とにかく出血を止めないと・・。
セバスチャンに駆け寄ると、なんとかれはメディパックを自分のお腹に当てて
いるではないか!


「キュゥ〜〜ッギュゥ〜〜〜ッ・・」
「ふぅ」


き、傷が無くなっている・・・。は、針の後も何もない・・・。



「よくもやりやがったな!!」



セバスチャンは敵が撃ってきた建物に向き直り、持っていたサブマシンガン
連射した。
ほどなく中で叫び声があがり、建物からの射撃がやんだ。


「おい!それM16じゃないじゃないか!!」
「ええ。L85A1ですよ。命中精度がよくてね」
「え、衛生兵が敵を撃っていいのか・・・?」
「綺麗事はなしですよ大尉。一番稼げるのは衛生兵なんですから。あ、
そうそう、来週には新しい銃が届くらしいですよ。G36Eとかいうやつ。
早く撃ちたいですよね!」


あっけに取られる私を尻目に、セバスチャンは手榴弾のピンを引き抜き、
建物のほうへ投げた。
爆音があがるとともにセバスチャンは突撃していった。


〜おしまい〜


一度、まともな医学的見地からBF2を書いてみようと思い、今回書いてみた。
おそらく続編はないでしょう。
だってメディパックとショックパッドしかないから続けようがないし。
ま、久しぶりの更新ということで。